ABOUT私たちについて

活動について

健康な建築の実現をめざして

健康づくりは、感染症対策から生活習慣病対策へ、治療から予防へと変遷してきました。そうしたなか、健康が個人や地域の社会・経済的な要因に影響を受けることによる健康格差への対応が課題となっています。建築や都市空間は、多くの人に影響をおよぼします。そのため、健康な空間づくり、まちづくりへの期待が高まっています。私たちは、健康な建築の実現により、活力ある社会づくりの推進に貢献したいと考えています。竹中工務店では、千葉大学予防医学センターと共同で「健築」というコンセプトを構想しました。
このコンセプトのもとで、空間づくり・まちづくりの立場から健康な生活、そして社会の実現に向けてどのような貢献ができるのかを考え、活動し始めています。

CHIBA UNIVERSITY 想いをかたちに 未来へつなぐ TAKENAKA

代表対談

予防医学と建築の融合
―建築・まちづくりにイノベーション
を起こす

株式会社竹中工務店 取締役社長 宮下 正裕

千葉大学予防医学センターセンター長 森 千里

代表対談

竹中工務店 健康空間・まちづくり寄附研究部門について

近年、健康を支援する建築やまちづくりのあり方に注目が集まっています。超高齢社会における社会保障費の抑制のため、がん、循環器疾患、糖尿病などの非感染性疾患を予防する方法のひとつとして、環境をつくりかえることによる健康への効果に期待が寄せられています。また、2014 年 7 月に「健康・医療戦略」が閣議決定されたように、世界有数の長寿社会を実現した日本の新たな課題として、『国民の「健康寿命」の延伸』をテーマとした産業面からの施策が求められています。このような背景のもと、健康社会の実現を空間・まちづくりの面から追求することを目的とし、千葉大学予防医学センターと株式会社竹中工務店が協働し千葉大学に「健康空間・まちづくり寄附研究部門」を設置しました。人と建築が寄り添うことで、健康的な環境を実現する「健築」というコンセプトの展開を主軸に、空間・まちづくりからの行動変容・健康増進にかかる研究・教育を開始しています。

共同研究の主な実施内容

  • 1健築デザインガイドラインの開発

    歩きやすいまちや使われやすい階段などで身体の活動を促したり、自然の光や緑などで感性へ働きかけたりすることで健康にどのような効果があるかといった「健築」に関わるエビデンスを充実させながら整理し、空間設計・まちづくりに応用可能なツールとします。

  • 2オフィス環境と行動・健康に関する調査研究

    実際に活動しているオフィスワーカーを対象に環境や健康状態に関するアンケート調査を継続的に実施し、膨大な生きたデータから両者を関連付け、健康に影響を与える要因を追究します。

  • 3ステークホルダーコミュニケーションの継続的な実施

    予防医学、スポーツ、メンタルヘルスなど、有識者を招いた意見交換を行い、さまざまな視点から「健康社会と空間・まちづくり」について考えていきます。

予防医学と建築の融合
―建築・まちづくりにイノベーションを起こす

株式会社竹中工務店
取締役社長 宮下 正裕

千葉大学予防医学センター
センター長 森 千里

まず健康に配慮した建築と予防医学・公衆衛生学がいつ頃から、
相互にどのように関わり合ってきたのか、その黎明期を振り返っていただきます。

宮 下
竹中工務店と関係深い接点として、「聴竹居」という建物が京都府大山崎町にあります。これは、当社に在籍し、後に京都大学に移られた建築家の藤井厚二が昭和 3 年に完成させた作品です。住宅に環境工学の視点を導入し、日本の気候風土と西洋的な空間構成を融合させた近代住宅建築の名作といわれています。今でいうパッシブ建築の先駆けと
いってもいいでしょう。屋根裏を利用した換気や地下から冷気を取り込む仕組みなどを盛り込み、自然の力を巧みに利用して日本の夏を涼しく健康に暮らす工夫がなされています。
*聴竹居は、2016年に竹中工務店が取得し、維持管理するとともに、一般にも公開されています。
私は森鴎外の都市論が思い浮かびます。鴎外といえば文豪として有名ですが、実は医学の分野で健康問題を研究し、公衆衛生を推進した人物です。公衆衛生学をドイツから日本に持ち込み、「衛生新篇」という公衆衛生学の教科書に「都市」の項目を設け、「まちは生き物である」と著しているのです。この中で鴎外は、まちは将来の姿を見すえて成長を促していくものであり、そのような成長を通じて人々が健康に暮らし生き生きと活躍できる環境をつくっていくことが最も大切であると説いています。鴎外が示した「建築と健康」「まちづくりと健康」という考えは、近年世界中に広まっている「健康都市」という取り組みにつながっていると言えるでしょう。

第二次世界大戦をはさんで戦後復興、高度経済成長期へと時代は進んでいきます。
公害問題など健康にかかわる新たな課題も出てきますが、
建築やまちはどのように変化していったのでしょうか。
また、予防医学や公衆衛生学はどのような発展をしていったのでしょうか?

第二次世界大戦をはさんで戦後復興、高度経済成長期へと時代は進んでいきます。公害問題など健康にかかわる新たな課題も出てきますが、建築やまちはどのように変化していったのでしょうか。また、予防医学や公衆衛生学はどのような発展をしていったのでしょうか?

宮 下
高度経済成長期には、都市に人口が流入する中で、同潤会住宅の考え方が発展する形で、建築を単体で考えるのではなく、団地を中心にコミュニティを形成する工夫がなされました。具体的には、商店街や病院、コモンスペースなど住民が集まる空間が中心に配置され、その周囲を住宅が取り囲むようなまちです。都市という限られた空間の中で住民の交流や快適性を求めたまちづくりが進められていきました。
戦後の公衆衛生では、疫病を防ぐ意味でも社会インフラとしての上下水道の整備が進んだことが大きかったと思います。さらに都市に人々が集中すると、住環境の整備も必要になってきます。水や食糧、空気、住環境の問題など体の健康が追求される一方で、宮下社長がおっしゃった都市における新しいコミュニティが形成されてくると、人々の交流に変化が生じ、社会との関わり方と心の健康との関係が新たに大きなテーマになってきたのです。
宮 下
コミュニティの形成と共に健康問題も多様化してきたということですね。建築技術の発展という観点では、この頃から「環境」というキーワードが強く意識されるようになり、建物が環境をコントロールするという考え方が主流となり、照明や空調などで環境を整えることが健康的な生活をもたらすという方向に進んでいきました。ただし、テクノロジーは使い方次第で負の影響をもたらすこともあるので、先進技術を建築にどのように取り込んでいくかについては十分に配慮していくことが必要だと思います。
公衆衛生学においても、技術と健康の関係が課題となりました。地球環境問題がクローズアップされるようになった1995年以降、エネルギー効率の向上が強く求められました。これに応じて住宅や建物の気密性が高められていきましたが、シックハウス問題など健康への悪影響も出てきました。そして2000年以降になると経済のグローバル化が一層進み、海外で製造された材料や製品、食品などが生活の様々な場面に溢れ、それらの使用や摂取により、健康を害する可能性のある物質との接点の拡大が問題となりました。このように健康はどのように生活するかということと密接に関係しており、健康を維持・増進するためには、予防が大切になります。予防の段階は、1次予防として健康増進、2次予防として早期発見・治療、3次予防として再発防止といわれています。近年、その前段階である「0次予防」として環境を改善して健康な生活を支えることの重要性が見直されています。さらに21世紀になり、個人個人が趣味や社会生活を生き生きと楽しめる環境が多様化し、健康に関する考え方にも多様性が見られるようになりました。

歴史的な変遷も経て、個人の生活も個人の健康状態や健康に関する考え方も
多様化する中で、健康な社会をつくるという観点で寄附研究部門は
どのような方向をめざし、どのような研究を進めていくべきだと思われますか。

宮 下

歴史的な変遷も経て、個人の生活も個人の健康状態や健康に関する考え方も多様化する中で、健康な社会をつくるという観点で寄附研究部門はどのような方向をめざし、どのような研究を進めていくべきだと思われますか。

宮 下
時代の移り変わりの中で人々の暮らしも様変わりしています。たとえば子育て一つとっても昔と今とでは違いますね。核家族化が進み、共働き世帯が増えていくことで、小さな子どもでも大人の生活時間やライフスタイルに合わせながら成長していくことが余儀なくされています。これは一例に過ぎませんが、建築がつくりだす環境も生活者の変化に対応しながら、健康な生活をどのようにつくりだしていくのかをきちんと考えていくことが必要ではないかと思っています。世界的に見てもこの分野の研究は始まったばかりです。日本がグローバルにリーダーシップを発揮できる分野として、「健康と建築」「健康と都市」があると考えています。教育機関である私ども千葉大学には、この分野に関して多くのアイデアがあります。国内の研究機関のみならず、世界の研究機関や WHO 等とのネットワークもあります。予防医学はもともと欧米から日本に入ってきましたが、これから先は日本から欧米へ発信し世界をリードしていかなくてはならないと思います。
大変いいお話を聞かせていただきました。私たちも建築を単体で考えているのではなく、ライフスタイルやワークスタイルなども含めて一人ひとりの健康にどう貢献できるかを考えています。例を挙げるとすれば、研究所をつくる場合でもそこで働く人々のワークスタイルと、それを実現するために必要なものは何かを徹底的に考えるのです。研究に集中できる空間に加えて、オープンな空間の中に様々な工夫を盛り込むことでより良い成果を上げられる研究環境をつくった事例もあります。しかし、環境制御技術やパッシブ建築など環境をつくりだすテクノロジーが向上している一方で、森先生がおっしゃった領域まではまだ到達していないと思っています。今後の課題としては、空間のつくり方や使い方が健康にどのような影響を及ぼしているのかというエビデンスを獲得していきたいと考えています。

最後に「健築」の活動を通じて実現したいものは何でしょうか。
それぞれお聞かせください。

一つは世界的な流れでもあるのですが、まちづくりと医学が融合していくことです。その融合が個人の健康な生活と健康な社会づくりをより一層推し進めるでしょう。これを推進する流れをつくりたいと思います。二つ目はポジティブな精神状態を引き出すまちづくりができたらいいですね。人間はワクワクすることがあれば、健康な状態に近づけますから。そして、人を育てることで、それを実現していきたいと考えています。私共教育機関は次の時代を担う人材育成を通して、竹中工務店と連携しながら「健築」を広く世界に発信したいです。
宮 下
本日いろいろとお話しましたが、やはり「健築」は人からはじまるものです。建築やまちにおいて、そこで暮らし働く人々を主役に考え、健康を目的にするのではなく、「健築」を方法論として捉え、その先にある一人ひとりにとっての幸せや可能性に貢献していきたいと考えています。そして多様性のある人々にとって包容力のある空間・まちづくりを実践していきたいですね。